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4月に入りました。桜も散ってしまいましたね。
先週は会社を2日ほど休み、土日を含めて3泊4日の家族旅行に行ってきました。家族を旅行に連れていくのを年に1回はやろうと思い、昨年からはじめました。
場所は九州。福岡に入り太宰府を見て、レンタカーを借りて佐賀の嬉野温泉へ。翌日はレンタカーで長崎の島原に移動し、3日目は熊本に。最終日は阿蘇山を見に行きました(レンタカーは熊本空港に乗り捨て)。
我が家の長男は鼻が悪いです。なので低気圧が来るとよく頭が痛くなります。
昨年もそうだったのですが、今年も行きの飛行機内の気圧のせいで激しい頭痛となり、帰りはどうしても飛行機に乗りたくない、新幹線で帰らせてくれと言ってきました。
なので「お前に食わせるタンメンはねぇ!」ばりに「お前に払う新幹線代はねぇ!」と伝え、3万円くらいの現金を渡して阿蘇山の麓の阿蘇駅に置いてきました(笑)。
まあ、3万円あったら全然新幹線で帰ってこれると思うのですが、せっかくならやったことのないことをしてほしい、プチ冒険をしてほしいと思い、在来線や高速バスを使わせて帰ってこさせました。
人間の脳みそは「新しいこと」をやると良い刺激を受けます。見たことがない景色、行ったことがない場所、やったことがないこと、というのは脳に良いんですよね。新幹線ではその「新しいこと」が少ないのでもったいない。
本人がどう受け取ったかはわかりませんが、良い体験になったのではないかなと思います。
さて、本日のコロコロニュース。
テレビや新聞なんてどこもこんなもん(もはや信じるほうがバカ)
では本日のお話です。本日は「自虐広告」について。
●「自虐広告」とは?
「自虐広告」というものをご存知でしょうか?
「自虐広告」というのは、自社や自社の商品をあえて下げるような表現を使い反応を得る広告のことです。事例は後で出しますね。
私はこれを今までは「ネガティブキャンペーン」と呼んでいました。しかし、最近は「ネガティブキャンペーン」というと、競合となる相手を貶めるキャンペーンとして使われてしまっています。
たとえば、選挙で対立候補の評判を落とすためにメディアを活用したり。アメリカとかだと「競合の商品のこんなところが悪い、それに比べて我社の商品は・・・」といったかなり直接的なネガティブキャンペーンが行われていたりします。
これらと区別するために、「自社をわざと落とす」広告を「自虐広告」というようになったのではないかなと推測します。ネットを叩くと「ネガティブキャンペーン」ではなく「自虐広告」のほうでいろいろと出てきます。
自虐広告の効果は、「メリコの法則」で完全に説明できます。
「メリコの法則」はもうこのコラムで何度も登場していますが、私の師匠、故伊吹卓先生が考案したもので、ある頭文字をとって「メリコ」としています。
- メ:目立つこと
- リ:理解できること
- コ:好感が持てること
これは、売れるデザインを判別するためのフレームワークなのですが、活用範囲はデザインに限りません。
では、自虐広告の場合はメリコの法則的にどんな効果があるのでしょうか?見てみましょう。
【メ:目立つこと】
広告の多くが、その製品やサービスがいかに優れているかを伝えるために使われています。簡単にいえば「商品の自慢」です。
「この商品はとっても安いですよ」
「この商品はとってもおいしいですよ」
「この商品はこんな機能がありますよ」
「この商品はこんなにたくさんの機能がありますよ」
などなど、「この商品はこんなに優れていますよ」がキーメッセージになっています。
対して、自虐広告はこういったある種の「自慢」はしません。なので、相対的に非常に目立ちます。超絶平たく言えば、「珍しい」から「目立つ」というわけです。つまり、世の中が自虐広告であふれるようになったら効果は落ちるでしょう。
【リ:理解できること】
営業の達人は、モノを売るときには必ず「メリット」だけでなく「デメリット」も伝えると言われています。
自虐広告はデメリットを伝えることで、その商品を購入したら期待できることと、期待してはいけないことの両方がわかります(理解できる)。
また、そのデメリットが許容できる範囲のものなのか瞬時に判別できますから、わかりやすい(理解できる)わけです。
加えて、ただ単にデメリットを伝えるだけではなく、メリットが際立つようなデメリットの伝え方ができると、さらに「リ」が強くなります。
これはちょっと抽象的な言い回しなのでわかりづらいかもしれません。後で事例のところで説明します。
【コ:好感が持てること】
自虐広告が好感を持たれる理由は2つあります。
ひとつは、単純に「面白い」からです。お笑いの世界でも「自虐ネタ」というのがあるとおり、「自虐」は「悲劇」ではなく「喜劇」の部類に入るため(先週のコラムで少しお話しました)、コミカルになり笑いにつながる可能性が高いです。
逆に言えば、「悲劇」になるような自虐は広告としては成立しません。
もうひとつの理由として、「日本人は自虐に共感しやすい」という特徴があるため好感を持たれやすいです。
残念ながら、日本人は「自分よりちょっとすごい人」よりも「自分よりちょっと下な人」に安心感を持つ民族だと考えます。これは「ムラ社会」的な日本人のDNAがそうさせていると考えています。
大谷翔平選手のような圧倒的なすごい人は別として、自分よりちょっとすごい人は「尊敬」より「妬み」の感情を抱きがち。
対して、「いやいや、僕なんてこんなんで全然ダメダメなんですよ〜」といわれたほうが(相手が自分より上か下かという事実は別として)、相手に好感を持ってしまう。この好感はおそらく安心感から来ると考えます。ああ、すごくなくてもいいんだ的な、または少なくともこの人より下ではない的な。
私自身も、かつてmixiというSNSで自虐ネタばかりを投稿していたところ、多くの「面白い!」という声をいただき、マイミク(mixi上の友達)がすごい増えました。自虐は共感されやすいのです。
ただし、注意が必要です。ポジティブで上を目指す人種の人々(起業家とか)は、自虐があまり好きではない人もいます。セルフイメージを下げることにもつながるためでしょう。
実際に私のSNS上の自虐ネタに苦言を呈した人が2名ほどいますが、やはり上昇志向の強い友人でした。友人だから助言してくれましたが、同じように感じても何も言わない人が数名はいると考えます。
●「自虐広告」の事例
ちょっと抽象的なお話を先にしてしまいましたが、具体例を出してみましょう。
まずはこのコラムでも何度か登場しますが、「雪国もやし」の事例を見てみましょう。
「雪国もやし」は、芸人のはなわさんがベースを引きながらCMソングを歌うテレビCMで人気を博しました。そのCMソングに自虐が含まれていました。それがこちら。
You TubeにこのCMソングのMVがあります。
もやしが高いといっても、そもそも一袋30円とかですから、それが50円(雪国もやしはたしか50円くらいだったはず)でもまあいいか、となります。このデメリット(他より20円高い)は全然許容できるということです。それよりもむしろデメリットを正直に伝えてくれたと感じるのではないでしょうか。
加えて、人間は価格が高いほうが価値が高いと思いがちです。つまり許容できる範囲のデメリットで品質が他よりも高いなら買いだな、と感じさせることができているといえます。
また、「絶対買うなよ」と言われたら買いたくなるのが人間の心理ですよね。ダチョウ倶楽部の「絶対押すなよ」的な。。。
つづいて、「ブラックサンダー」です。メーカーである有楽製菓さんはお客さまでもあります。ブラックサンダーの自虐広告がこちら。
天才的なコピーだと思います。「本命チョコにはなりえない、ならいっそのこと義理チョコに特化してやるぜ!」という自虐。当然、好感、共感を得られます。
そしてなによりもメリットがわかりやすい。女性からしたら、バレンタインデーにブラックサンダーなら気軽に渡せるという理解が進んだのではないでしょうか。
しかも、2023年のバレンタインデーでも有楽製菓さんはさらにかましてくれました。それがこちら。
画像はPRタイムスよりお借りしました。「B級」って自分で言っちゃってますね(笑)。有楽製菓さんのプレスリリースになっているので、こちらのPRタイムスの記事も参考にお読みください。
有楽製菓さんのブラックサンダーはもうひとつ逸話があるのですが、自虐広告ではないので今度お話します。
つづいて、自虐広告の元祖とも言えるのがこちら。私も記憶にある限り最初に知った自虐広告です。
はい、キューサイの青汁です。悪役商会の八名信夫さん、懐かしいですね。話はそれますが、悪役に特化した「悪役商会」ってめっちゃ秀逸なポジショニング。
このCMは私が小学生くらいのときに流れていたのではないかなと記憶しています。父親がこのCMを見て大笑いし、ビールを飲み干したあとによく真似していました。そういうお父さんは当時多かったと推測(笑)。
この自虐広告は、先ほどお話しした「ただ単にデメリットを伝えるだけではなく、メリットが際立つようなデメリットの伝え方」の好例となります。
「良薬は口に苦し」ということわざ(慣用句?)があるとおり、「まずい」ということを伝えることで「体にとても良い」ということを際立たせることが可能となります。さすが元祖。
古いCMつながりで、ちょっと自虐の毛色が違いますがこちらも。
マルマンさんの禁煙パイポのCM。これも父親が大爆笑していたのを覚えています。やはり私が小学生のときのCM。
これは商品の自虐というより自虐ネタがただ含まれているだけではあるのですが、やはりとにかく目立つことと共感(面白い≒好感)を生み、一世風靡したCMです。今でも記憶に残っているもんな〜。
最近の自虐広告の例もお話しましょう。とにかく秀逸だなーと感心したのが、驚安の殿堂ドン・キホーテのこちらの自虐広告。
画像はロケットニュースからお借りしました。制作秘話的なことも載っていますので、ぜひ読んでみてください。
これ、すごない?「ドン・キホーテは最高品質のものは売ってません」という自虐を含みつつ、「でも性能的には問題ないでっせ、何より安いし」ということが、この短いコピーで瞬時に判断できます。
これは今までに築いてきた「安さ」というブランディングがあるからこそ成立しているともいえ、まさにドン・キホーテならではというか、他ではマネできない(マネしても説得力を出せない)広告です。これも天才の仕業だと思う。
こんなのもあります。志摩スペイン村の自虐広告。
切ない。デメリットを言うことでしっかりメリットが引き立っているのですが、なんだか切ない(笑)
日経ビジネスのこちらの記事によると、【営業企画部課長の柴原励治氏は「ありのままの姿を伝えただけ。自虐を狙ったつもりは全くなかった」】そうです。。。
しかし、同記事によると【伊勢志摩サミットが開催された2016年の同期間と比べ約2倍の利用となった】ということで、図らずも自虐で大成功ということらしいんですね。
そして同じテーマパークで行くと、「自虐のデパート」と言えそうなのが「姫路セントラルパーク」です。
もうこれ、多くを語らずで詳しくはサイトを見てほしいのですが、ファーストビューでいきなり飛び込んでくるコピーがこちらです。
自虐の自己開示がすごい(笑)。あとはここから立てつづけに自虐が出てきますので、ぜひサイトをご覧ください。面白いです。
とにかく見て!自虐のデパート「姫路セントラルパーク」のサイト
最後がこちら。ファミレスのガストの自虐広告です。
ちょっと長いですが、これも良い広告ですね。慎ましやかな自虐と言うか。。。本命彼女ではないような物分りの良さ(笑)。物分りの良さって自虐につながると知りました。
こちら、コピーだけではなく広告全体で面白いつくりになっています。詳しくはねとらぼに載っていますのでぜひご覧ください。
●自虐広告を実践すべきか?
私たちビズアップが自虐広告をつくるとしたらどうなるでしょうか?
とかですかね(笑)。いや、実際にはロゴ以外にもいろいろなものがつくれますのでこのコピーを使うのはやはりはばかられるのですが、ただ「ロゴに関しては間違いないだろう」というメリットを引き立てることはできているコピーになっていると考えます。
自虐広告は諸刃の剣と言えるかもしれません。コミカルに仕上げたつもりがダダ滑りになってしまう可能性もあるし、それどころか評判を落とす可能性だってあります。怖いですよね。
なので、採用するのに非常に勇気がいると思います。
自虐広告に限らずですが、奇抜だったり突飛な企画というのは、お客さまが受け入れてくれるかどうかが提案者からすると一番のネックとなります。前述のとおりお客さまからしたら勇気がいる判断が必要になるし、お客さまによっては「ふざけてんのか」と感じる人すらいます。
しかし、もしも引き当てたならその効果は大きいですね。そういう意味では少しギャンブルチックな要素があると言って良いかもしれません。
では、どんな条件なら自虐広告を行っても良いのでしょうか。いくつかあると思います。
まずは、冒頭でもお話しましたが「笑えない自虐」はNGです。不快になってしまいます。必ず笑いを伴う必要があるとはいいませんが、あったほうが良さそう。何も大爆笑を誘う必要はありません。
そして何より重要だと私が考えるものがあります。それは「メリコの法則」の「リ」に関わります。
「リ」は「理解できる」ですが、これには「説明的に理解できる」ということと「直感的に理解できる」ということの2つがあります。このうち「直感的に理解できる」のほうは「〜〜っぽい」とか「〜〜らしい」と言い換えることができます。
何を言いたいかというと、自虐をすることやその内容が、その会社、その商品「らしい」かどうかが重要ということです。
そして、これはブランディングそのものの話にもなってきます。ブランディングは「強み」と「らしさ」のかけ合わせです。
「強み」は、たとえば「東大を出ています」などです。強みの弱点は、もっと強い相手が出てきたときに効力が下がる点です。たとえば「東大を出ています」を強みとした人の前に「ハーバード出身です」という人が出てくると、価値が相対的に下がる可能性があります。
対して、「らしさ」は相手により価値が変動しづらいという特徴があります。「らしさ」のもっともわかりやすい例は「のび太くん」です。のび太くんは弱虫で、勉強も運動も苦手ですが愛されます。
ただ、これは自身の「らしさ」が認知される前に誰かと「らしさ」が被ると効果が出ません。芸人さんの世界で言えば「キャラかぶり」というもので、彼らが非常に恐れるもののひとつです。
人の例ばかりで恐縮ですが、「強み」も「らしさ」も兼ね揃えている代表的な人がイチロー選手などです。
自虐が「らしさ」とかみ合っていない場合は、自虐広告をするべきではないでしょう。
政治家は「誠実」だと誰もがイメージしているから、不倫をするとひどく叩かれます。個人的には日本をほんとうの意味で良くしてくれるのなら、そんなことはどうでもいいと思うのですが。
対して、同じ不倫でも歌舞伎役者などは「芸の肥やし」という言葉があるくらいですし、お笑い芸人も「まあ、そんなもんだよね」と思われがちです。これも「らしさ」がそうさせています(最近はお笑い芸人も叩かれてますが)。
まさにドン・キホーテの例などは、「らしさ」と「自虐」がかみ合った好例と言えるのではないでしょうか。ロケットニュースの記事を読むと次のように書かれています(この記事はぜひ読んでほしい)。
──上司に止められたりしなかったですか?
担当者さん「会議でプレゼンする時は少し不安はありましたが、『ストレートでわかりやすい! 当社にしかできない当社らしい表現だ!』と満場一致の合意を得られました」
──とのこと。考えた人も凄いけど、満場一致なのも凄いと思う。ドンキの社風が感じられるというか。
さて、いかがでしょうか。御社のプロモーションの一環として、自虐広告。御社のらしさとマッチしますか?
今回はここまでです。
津久井
投稿者プロフィール
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ロゴ専門デザイン会社ビズアップを2006年に創業。
かつてバンドで大手レコード会社よりCDリリースするも、大事なライブ当日にメンバー失踪、バンドは空中分解。その後「社長になりたい」と思いすぎてヨメの出産5ヶ月前という非常識なタイミングで、各方面から非難を受けながらも独立、5ヶ月でビジネスを軌道に乗せる。
2009年から毎週書きつづけているコラムでは、ブランディングやデザイン、クリエイティブについてかなり独特な視点で切り込む。レインボータウンFMでパーソナリティも務めている。
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