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先週ですが、古い友人に久しぶりに会いました。
「さんちゃん」というその友人は私よりも年下で、かつての会社の同僚でした。今は彼も起業し、経営者交流会を主催しています。
さんちゃんは「人間パワースポット」と言われたくらい、いろいろな人を惹きつけるナゾの魅力を持っています。私は「人間わらしべ長者」と読んでいます。出会う人をステップにどんどん高みに登っていくからです。今は政治家とかともつながっているんじゃないかな。
その経営者交流会が東京で開催されたため、久しぶりに参加し、3年ぶりくらいにさんちゃんと再会したんですね。
そこでショックなことを聞きました。
さんちゃんと仕事をしていた当時の会社「H社」の取締役が、今わりとたいへんなことになっていると。。。
このコラムの熱心な読者の方なら、「H社の取締役」というだけでもしかしたらピンと来る方もいるかも知れません(このコラムのすごいマニアなら)。
毎年秋ごろに、「年に1回の恒例企画」としてビズアップの生い立ちをコラムで紹介していますが、「H社」やその「取締役」はその中に登場する私の当時の師匠なんです。伊吹先生が「界王様」だとしたら取締役は「亀仙人」くらいの感じ(笑)。
その取締役と出会わなかったら、私は起業できていなかったでしょう。
H社時代、彼の直属の部下にしてもらうことができ、それによりダイレクトレスポンスマーケティングをみっちりとトレーニングすることができました。また起業直後にも助けてもらいました。
今の自分やビズアップがあるのはその人のおかげと言っても過言ではないんです。
そんな取締役の「Kさん」、今は離婚し、親御さんの介護をしながら佐川急便でアルバイトをしているというのです。
いっときは自分でも会社を起こし、マーケッターとしてとても華やかな道を歩んでいた時期もありました。さんちゃんに「人間パワースポット」と名付けたのもKさんでした。
そんなKさんが今そんなことに。。。
実はですね。。。
これは年に1回の「ビズアップの歴史」のお話のときにはしたことがなかったのですが、Kさんはなんとビズアップの社員だったんです。2014〜2015くらいのことでしょうか(ビズアップの操業は2006年)。
私としては自分のマーケティングの師匠が来てくれたことでこの上なく頼もしく感じました。しかし、一緒に仕事をしていくと、Kさんのメンタルもマーケティングメソッドもアップグレードされていないことに気づきました。
私も当時ちょっとそれにイライラしてしまった面もあり、Kさん自身もついていけないと感じたのか、結局Kさんは1年半くらいでビズアップを退職することになったのです。
離婚や介護、アルバイト生活はその後の話です。もしかしたら、うちの退職がきっかけになったのかもしれない。さんちゃんに話を聞いたとき、自分にも責任の多くがあるように感じてなんともいえない感情になりました。
人間、いつどうなるかわかりません。今を全力で生きつつも、やっぱり先のことも見据えないといけない。成長しつづける必要もある。「現状維持は衰退」っていいますしね。
ちょっと辛気臭い上に長い前置きになってしまいましたが、今週も張り切っていきましょう。
●【クイズ】これらの企業やブランドの共通点がわかりますか?
今から名前を挙げる企業やブランドの「共通点」って何かわかりますか?
- レッドブル
- スターバックス
- マクドナルド
- iPhone
- カップヌードル
- 午後の紅茶
- 生茶
- プリウス
- テスラ
- サトウのご飯
- ポッキー
- メリット
- アタック
- バスクリン
- ドン・キホーテ
どうでしょう?
まず、ジャンルはバラバラですね。社名、店名もあれば商品名もある。一見「共通点」は見当たらなさそうな。。。
では質問を変えますが、「これらを聞いたことがありますか?」だったらどうでしょう?
おそらくこのコラムを読んでくださっている方だったら、100%と言っていいくらい、「聞いたことがある」と回答されるのではないでしょうか。
さらに質問を加えますが、「これらがそれぞれ何かわかりますか?」だったらどうでしょう?
これもほぼ100%答えられると思います。
一応明確にするならば、
- レッドブル:エナジードリンク
- スターバックス:コーヒーまたはコーヒーチェーン
- マクドナルド:ファストフード
- iPhone:スマートフォン
- カップヌード:インスタント麺
- 午後の紅茶:すっきりとした紅茶飲料
- 生茶:苦いお茶
- プリウス:ハイブリッドカー
- テスラ:電気自動車
- サトウのご飯:インスタント白米
- ポッキー:細長いチョコレート菓子
- メリット:シャンプー
- アタック:洗濯用洗剤
- バスクリン:入浴剤
- ドン・キホーテ:ディスカウントストア
となりますね。まさにジャンルがバラバラ。近しいものもありますけども。
では答えをお伝えしますね。
上記は、
- そのカテゴリでNo1のブランド
- そのカテゴリではじめて登場したブランド(カテゴリをつくったとも言える)
です。
そう、今日お話したいのは、
- 「No1」、「(業界)初」の重要性
です。そのカテゴリで1番のブランドか、そのカテゴリ「初」のブランドか、がいかに重要かというお話です。
カテゴリ「初」、またはカテゴリ「No1」は、多くの人の記憶に刻み込まれます。業種業界によっては、何人の脳内シェアを奪ったかがほぼそのまま市場規模となって現れると言っても過言ではないでしょう。
これらのブランドが本当に、「初」または「No1」なのかを確かめるのはとてもかんたんです。このコラムに度々登場する「ブランディング魔法の質問©」を使います。
「ブランディング魔法の質問©」は、とてもシンプルな質問です。「〜〜といえば?」と聞くだけです。たとえば「ロゴ作成といえば?」とか。
このあとに自社の名前やブランド名が出てるかどうかで、どのくらい認知されているか、ブランドが浸透しているかがわかります。もっとも多い回答を獲得できればNo1といって差し支えないでしょう。
これは何も有名ブランドに限った話ではなく、たとえばエリアを限定して行うこともできます。「〇〇駅周辺でラーメン屋さんといえば?」とか。
こうすると、その駅界隈で自分のラーメン店がNo1を取れているのか?取れていないとしたら何番目なのか?を知ることができます。
先ほどのブランドを見てみましょう。
「エナジードリンクといえば?」と聞いたら、今であれば8割の人が「レッドブル」と答えるでしょう。「いや、私はモンスターって答える」という人は放っておきましょう(笑)。ビジネスにおいてのインパクトは大きくないので。
「ファストフードといえば?」もほとんどの人が「マクドナルド」と答えるのではないでしょうか。私は「モス派」ですけど、私みたいな人間は放っておけばいいんです(笑)。
「スマホといえば?」は「iPhone」が答えのほとんどでしょうし、「ハイブリッドカーといえば?」は「プリウス」でしょう。たとえプリウスに乗っていなくても。
●「凡人の歌、うたってんじゃねー」
ちょっと昔話をしますが、さんちゃんやKさんといっしょに働いていたH社時代、会社で呑み会からのカラオケ(二次会)がありました。
その会社は私より遥かに若い、20歳前後の栄養士の新卒女子たちが大量にいました。
私は何を歌っていいかわからず、かといって1曲も歌わないで新卒女子たちに「つまらないヤツ」と思われるのもイヤ、もっといえば、できれば人気者になりたいという葛藤を抱えていました(恥)。
そして私がチョイスした曲は、SMAPの「世界に一つだけの花」でした。「若い子たちでも知っていてそれなりに盛り上がりそう」という理由からの選曲でした。
1番が終わって、間奏が流れている間のことです。H社の社長(しかも同い年で当時28歳)に衝撃的な怒られ方をしました。
「おまえ、なに凡人の歌うたっとんねん。No1じゃなきゃダメに決まってるやろ。」
盛り上がると思って歌ったのにさして盛り上げることもできず、ナゾの説教をされ(盛り上げられないのは自分のせいだけど)、2番をどういうメンタリティで歌えばいいか、自分を見失いました(笑)。
起業してからは、この社長が言っていたことがよくわかるようになりました。やっぱりNo1は強いです。我々もデザイン会社としてはロゴの作成数は日本一です。
しかし、なぜ「初」または「No1」になるべきなのでしょうか?脳の機能的な面から、ChatGPTに聞いてみました。
認知科学的には4つの効果が考えられるそうです。
- カテゴリ化とプロトタイプ効果
- 記憶の親近効果
- 社会的証明(バンドワゴン効果)
- 認知負荷の軽減
ひとつずつかんたんに説明してみますね。
「カテゴリ化とプロトタイプ効果」について。人は物事を「カテゴリ」に分けて情報処理します。先ほどの「ブランディング魔法の質問©」もそうでしたが、例えば「スマホ=Apple」、「コーヒー=スタバ」のように。
このとき、人間の脳はそのカテゴリを代表するもの(=プロトタイプ)を中心に記憶するのだそう。「No.1」と名乗ることで、プロトタイプとしての座を獲得しやすくなると考えられていて、このことから「No1」を獲得するのが重要というのが、「No1を目指すべき理由」のひとつ目です。
ちなみに補足ですが、「初」も正確には「No1」の中のひとつですね。なぜなら「一番最初(重複表現なので間違った使い方ですがわかりやすいので使います)」と言えるわけで、やはり「一番」だから。
つづいて「記憶の親近効果」について。
記憶の仕組みとして、人は「最初」と「一番」を覚えやすいです。これを「初頭効果」「親近効果」といいます。もう少し詳しく説明してみます。
人は何かを記憶するときに、頭の中で繰り返しています。英単語を覚えるときとか、漢字を覚えるときもそうでしたよね。
たとえば、こんな実験をしてみましょう。今から出す単語を順番にひとつずつ覚えてください。最初は「鳩(はと)」です。
いいでしょうか?
つづいては「どんぐり」です。さらにつづけて「お餅」です。いいでしょうか?
どんどん行きます。次は「ボールペン」です。いいです?まだ行きますよ?「ビジネス書」です。さらにつづいて「エプロン」。
まだいきます。「首輪」です。「ワニ」です。「肉うどん」です。
どうでしょう?暗記できましたか?何度も繰り返してできた、という人もいるかもしれません。
では、この調子で単語が100個つづいたらどうでしょう?覚えられますか?多くの人が覚えられないと思います。しかしですね、次の質問には多くの人が答えられるはずなんです。
「一番目の単語は何でしたか?」
これが初頭効果のロジックなんですね。はじめてのものは記憶しやすいということの本質はこれなんだそうです。
また、「No1」もほとんどこれと同じ効果で、「一番があったよな」という印象が残ることで、または「これが一番だ」という「アンカリング効果」で記憶に残りやすいんだそうです。
なお、最後も記憶されやすいらしい。最後、何だったか覚えていますか?(笑)
そして「社会的証明(バンドワゴン効果)」。これは有名です。「みんなが選んでいるNo.1なら、自分も選んでいいかも」と感じる心理のことを指します。
これは、人間が多数派の意見を安全パイとして信頼しやすいからです。リスク回避の本能であり、つまりは「失敗したくない」という心理から来ています。これは日本人は特に強い傾向にあります。なのでNo.1と掲げると選ばれやすい。
最後に「認知負荷の軽減」について。
人は多すぎる選択肢に直面すると「選択麻痺」に陥ります。
これを物語る「ジャムの実験」というのがあるそうで、アメリカの大学教授シーナ・アイエンガーらが、スーパーの試食販売で行った実験なんだそう。
- ある日、試食テーブルに24種類のジャムを並べた。
- 別の日には、同じ場所に6種類のジャムを並べた。
- どちらの日もお客さんが試食できるようにしておいた。
この結果、試食する人の数は6種類よりも24種類のほうが多かったそうです。人は選択肢が多いと「面白そう」と感じるからなんだそう。
対して、実際にジャムを購入した割合は6種類のほうが圧倒的に多かった。24種類だと選べない人が多かったわけで、これが「選択麻痺」です。試食24種類で購入した人はわずか3%だったのに対し、試食6種類で購入した人は30%にも及んだそうで、およそ10倍。
つまり、「このカテゴリでNo.1」と言われると、選択肢が一気に絞られるため、脳の負担が減る=選択麻痺が起きないわけです。これがNo1が選ばれる理由の4つ目というわけです。
以上のような心理効果から、カテゴリの「No.1」になると、「あの分野といえばあの会社」と記憶されやすいわけです。
●自社は、どうすれば「No1」や「初」になれるのか?
ところで。今からすごいことをいいます。
世界初のファストフードって、実はマクドナルドではないって知っていましたか?
今まで散々、「No1」や「初」が重要や!って言ってきましたが、実はそうらしいんですよ。
世界初のファストフードチェーン(オペレーションの標準化、安価、迅速サービス)という意味では、「ホワイトキャッスル」というところが元祖らしく、マクドナルドが1940年開業、1955年フランチャイズ化なのに対し、「ホワイトキャッスル」の創業は1921年。マクドナルドの20年近くも前。
これから言えることはひとつです。捉え方によっては悪意がありそうに感じるかもしれませんが、
- 事実と人々の認識は違う
ということです。マクドナルドも、「私たちが元祖ファストフードです!」とは謳っていないと思います。ただ人々がそうやって勝手に解釈しているだけ。
レッドブルだって、元々は大正製薬の「リポビタンD」をヒントに開発された商品です。
「栄養ドリンク」という言葉が「エナジードリンク」に変わっただけでNo1を獲得できたのです。もしも「栄養ドリンク」というカテゴリで戦っていたら、おそらくまだリポビタンDを販売本数では抜いていないのではないでしょうか?
ここにもやはり、ある事実と人々の認識には微妙にズレがあるわけです。
シャンプーの「メリット」なんて、ぶっちゃけ今使っている人はほとんどいないのではないでしょうか?でも、多くの人の記憶に残っている。
お笑いコンビ「トレンディエンジェル」の漫才で、斉藤さんが「シャンプーはメリットを使っている」というと、相方のたかしが「メリットねーじゃん!」と突っ込むネタがありますが(これ大好き)、これはウラを返せば日本人の多くが「メリット」というシャンプーを知っているから成立するネタです。でも、今ならもっと売れているシャンプーがあるはずです。
人々の認知と事実は必ずしも一致するとは限らない。つまり、うまくコントロールすることすらできる、ということです(もちろんウソをついちゃいかん)。
では、どうすれば「初」や「No1」だと認識されるのでしょうか?
方法はいろいろあると思いますが、私の考えではこのコラムでいつもお話しているように「違いを出す」がその方法となります。
「差別化」は「差」と書くからこそ「差」に注目してしまいがちですが、人は「差」を認識できることは少ないです。「差」ではなく「違い」を出すことが、本当の「差別化」です。
マクドナルドは明らかに他のハンバーガーショップと違います。その違いをホワイトキャッスルよりも先に人々に認識させたことで今の地位があります。
レッドブルはどんな違いがありそうでしょうか。リポビタンDと何が違うのでしょう?
それは、「コンセプト」です。「スタイル」と言い換えてもいいかもしれない。
リポビタンDは「栄養ドリンク」であり、「体調がすぐれないとき」や「がんばらないといけないとき」に飲むものでした。つまり「薬」に近い。
レッドブルはそうではありませんでした。「エナジードリンク」という新しいカテゴリ「初」のドリンクになり、かつ若者の生活スタイルに働きかけました。かんたんにいえば「イケてるでしょ?」と。ジュースではこうはならなかった。「エナジードリンク」という新しいカテゴリが必要だった。
これは古くは日清カップヌードルがまったく同じでした(前述の一覧にも載っていましたね)。
ラーメンを食べたければラーメン屋さんがあるし、家でラーメンを食べたければ自社のチキンラーメンをはじめとした競合商品がある。
そんな中で「どんぶりがいらないだけのインスタント麺なんて売れない!」と言われながらも発売したのがカップヌードル。
これは当時の若者の文化にマッチし、「フォークで食べるラーメン」「歩きながら食べられるラーメン」としてカテゴリを確立しました。新しいカテゴリで若者のスタイルに訴えかけるという「違い」の出し方はレッドブルと同じです。
ちなみに開発した日清食品創業者安藤百福さんは「ラーメンじゃない!ヌードルだ!」と主張したそうで、つまりは商品としての違いはもちろんのこと、スタイルの違いを明確に認識していたと私は考えています。
違いを生むには、平たくいえば「カテゴリを細かく切り分け、その中でオンリーワンになる」ということです。そうすることで、人々の「記憶」という脳内シェアを獲得することができ、選ばれやすくなるというわけです。
つまり、「もともと特別なオンリーワン」を目指せば、実は自ずとナンバーワンになる可能性が高いというわけです。
作詞作曲した槇原敬之がそこまで考えて歌詞を書いたかは定かではありませんが(笑)。
今回はここまでです!
津久井
投稿者プロフィール

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ロゴ専門デザイン会社ビズアップを2006年に創業。
かつてバンドで大手レコード会社よりCDリリースするも、大事なライブ当日にメンバー失踪、バンドは空中分解。その後「社長になりたい」と思いすぎてヨメの出産5ヶ月前という非常識なタイミングで、各方面から非難を受けながらも独立、5ヶ月でビジネスを軌道に乗せる。
2009年から毎週書きつづけているコラムでは、ブランディングやデザイン、クリエイティブについてかなり独特な視点で切り込む。レインボータウンFMでパーソナリティも務めている。
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